嘘つき天使へ、愛をこめて
「どこ……行くの、天使」
みんなに背を向けて教室を出ていこうとしたあたしを呼び止めたのは、寝ていると思っていた玲汰だった。
……起きてたんだ、玲汰。
僅かに顔を上げて、寝ぼけ眼のまま首を傾げた緑髪の珍生物に「天使じゃない」とだけ告げて教室を出る。
向かうのは、女子トイレ。
調べたところ、この学校にはほぼ女子がいない――どころではなく、あたし以外の女子生徒自体が存在しなかった。
そう、たったのひとりも。
つまりは今、白燕で唯一の女子であるあたししか使わない需要皆無のトイレは、最高の隠れ家になるというわけだ。
廊下で数人のヤンキーくんたちにすれ違うたびにぎょっとしたような顔を向けられるのは、やっぱり気分が悪い。
会釈だけして、話しかけないでオーラを前面に押し出しながら、生徒用女子トイレへと逃げ込む。
一応掃除はされているようだけれど、誰も使っていないだけあって、中は今にも霊でもわいて出そうなほど雑然としていた。