嘘つき天使へ、愛をこめて


声を荒げた男の反応に、少しばかり驚く。


これは思いがけず良い情報を得られた。


こんな場所で溜まっているような不良でも、これほど怖がらせる悪魔ってどんな人だろう。


そう考えると、さらに興味が湧いてきた。


「ねえ」

「どんな関係だって聞いて……っ!」


ああもう、めんどくさいな。


「質問に、答えて」


男の声を遮り、フード越しに睨みつける。


向こうからは見えないはずなのに、それだけで何人かが怯えた表情でたじろいだ。


じりっと後ずさる者もいる。


「な、なんで女に命令されなきゃいけねぇんだよ……っ!」

「……おい、コイツなんかやばい気がする」



ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ。

耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られながら、あたしはズキッと痛んだ頭を押さえる。


……そうだ、急がないと、もう時間がない。


不思議の国のアリスに出てくる、時計を持ったウサギのような気分だった。


ちくたくちくたく、時は確実に進んであたしを蝕んでいく。


のんびりなんてしてる暇はない。
< 6 / 225 >

この作品をシェア

pagetop