嘘つき天使へ、愛をこめて


蛇口を捻って水を出す。

冬の寒さにさらされた水道管できんきんに冷やされた水に触れても、冷たいとは思わない。


それを暫くぼーっと見つめ顔を上げれば、手を洗う鏡の中の自分と目が合った。


血色がなく決して顔色が良いとは言えない白い肌、化粧のひとつもしていない童顔、腰まで伸びたふわふわのライトブラウンの髪。


あたしの知る父親とはどこも似ていない。

きっとあたしが幼い時に命を落としてしまった母親似なんだろう。


五歳くらいの時だったから、正直覚えていない。


前に大翔に写真を見せてもらったことがあるけれど、それはそれは美人な人だった。


おかげでその遺伝子を受け継いだあたしも、見た目だけなら天使と言われてきた。


これのどこが天使なのか、自分では理解しかねるけれど。


ポケットに手を突っ込み、小さなケースを取り出し数十粒の薬を掌に出す。


朝昼晩と飲んでいる薬だ。

こんなものに頼って生きているのも、滑稽でしかない。


彼らが知ったら、どんな顔をするだろうか。

……この薬を飲まなかったら、あたしは一体どうなるんだろうか。
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