嘘つき天使へ、愛をこめて
「……あなた達の恐れる〝胡蝶蘭〟。あたしはまだ、なんの関係もないから安心して」
「……まだ?」
「意外と鋭いんだ?教えないけど」
コクリと息を呑んだ彼らに、あたしは小さく微笑んでみせた。
ヒューッとこの闇を倍増させるような冷たい冬の風が、ビルの狭間を切り裂くように吹いた。
雪なんて降っていないのに、まるで細かい吹雪にあたっているような錯覚を覚えるほど寒い。
フードからわずかに覗いていた髪が攫われて緩やかに踊り、あたしは右手でそれをおさえた。
「教えて?……あたし、暴力は嫌いなの」
「ッてめぇ、さっきから調子に乗りやがって……!女だからって手出さないとか思うなよ!」
ひとり、カッと頭に血が上ったらしい刈り上げ頭の男が腕を大きく振りかぶり、殴りかかってくる。
……ほら、だから嫌いなんだ。
自分に向かって飛んでくる乱雑な拳を、身を屈めてその場から一歩も動かずに交わしながら、どうやら穏便にはいかないらしいと悟った。
めんどくさい、こんな喧嘩。
殴ってなにかが得られるわけでもないのに。