嘘つき天使へ、愛をこめて



目を覚ますと、一番最初に目に飛び込んできたのは黒、なにも映らないただの暗闇だった。


まだあたしは寝ているのかと、もう一度ギュッと目を瞑り、再び開けてみる。

おかしいな、変わらない。


「ん……?」


自分の手を顔の上にかざしてみて、どうやらあたしが寝ているらしい部屋が光という光を遮断しているため、真っ暗なのだと悟る。


ならば、ここは、どこだろう。

あたしは何をしていたんだっけ。


起き上がり、ぼんやりとはっきりしない頭に手を当てて、手探りで記憶を辿っていくと、なんとなく思い出してきた。

そう、あたしは確か、胡蝶蘭のみんなに連れられて倉庫ならぬ屋敷にやってきた。


そのあと、誰かに手を引かれて……誰か?


「あ、れ……」


……誰、誰だったっけ。

あたしの手を引いた人。


冷たい手をしている、そう小悪魔のように笑う人。


思い出せ、忘れちゃいけない。


大丈夫、あたしはまだ、憶えているはずだ。


そう、あの人は。

あたしが探していた、あの人の名前は――。


……ガチャッ。


「サリ、目、覚めた?」


「っ……み、やび……?」


扉が開き、真っ暗だった部屋の中に一筋の光が差し込んだ。


どうやらここは、例の姫用の部屋らしい。

その光と共に部屋に入ってきた人物を見て、口から自然と滑り出た彼の名前に、ホッと胸をなでおろす。
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