嘘つき天使へ、愛をこめて
「みやび……月岡、雅……」
「なに、俺の名前がどうかした?」
「ううん……」
憶えてて、良かった。
自分でも気づかないうちに相当焦っていたのか、体全体にじんわりと汗をかいているようだった。
部屋の電気をつけた雅が、汗をかいているあたしを見て驚いたような顔をした。
「サリにしては弱気な声だと思ったら、すごい汗。まだ気分悪い?ちょっと待って、タオル濡らして持ってくるから」
「あ、ま、待って雅……っ」
再び部屋を出ていこうとした雅を咄嗟に呼び止めてしまい、ハッと伸ばしかけた手を引っ込める。
……なにやってんの、あたし。
自分の行動が理解できなくて、引っ込めた手を胸に抱えるけれど、その手が僅かに震えていることに気づく。
もう本当に、バカだ、あたしは。
よりによって雅の前で倒れて、挙句こんな……。
俯くあたしに雅は何を思ったのか、静かにベットへ歩み寄ると、ギシッと音を立てて腰を下ろした。
「……怖い夢でも、見た?」
いつになく優しい声音でそう訊ねてくる雅に、一瞬どう答えようか迷ってから、小さく首を横に振る。
すると雅はそっとあたしへ手を伸ばし、汗ばんだ額にくっついた髪をよけると、胸に抱えていた手を包み込んだ。