嘘つき天使へ、愛をこめて


「ぐっ……」


見事、男のみぞおちにクリーンヒット。

男は呻き声をあげて、その場に崩れ落ちる。


ただの回し蹴り。

しかも多少は手加減をしたつもりだ。


たったの1発でノックアウトなんて、さすがにあたしも拍子抜けしてしまい、目を瞬かせる。


やっぱり喧嘩慣れしてないんだ。

そうだよね、こんな裏路地に集まってるのなんて不良の少し背伸びした感じの人たちばかりだし。


今のは正当防衛だ。

暴力は嫌いだって言ったのに先に殴りかかってきた、この男が悪い。


「……で、もう1回聞くけど」


その倒れたままの男を横目で見ながら、あたしは呆然と立ち尽くす他の男達へと顔を向けた。


ぎくりと体を強張らせた彼らは、本気でやばいと思ったのか信じられないものを見たように口をパクパクさせている。


「〝胡蝶蘭〟の総長の名前は?」


男たちの顔は、暗闇でもわかるほど蒼白そのもの。


ただ1発かましただけでこれなのだから、根っからの不良じゃないんだろう。


だからって女相手にそこまで怖がらなくても……ね?
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