(A) of Hearts
たしかあれは15歳。
日本に帰ってきてから。
新しい恋で、すっかり忘れてたはずのヒロ。
わいわいしているうちは、それで楽しかったけれど、それ以上を求められるとヒロの言葉を思い出してしまい、そのたびにヒロのことを考えてしまった。
だから嫌い。
嫌いだけど会いたい。
会いたいけど会いたくない。
会いたくないけれど、いまどんな顔なのかは見たい。顔は見たいけれど喋るのは無理。
喋るのは無理でも——、声なら聞きたい。
「ではコンビニ行って来ます」
「よろしく」
くるりと背を向け、肩を叩きながらエントランスに向かっていく芦沢さん。その姿を見送ってから、わたしも歩き出した。
「……むう」
やっぱりどっか、腑に落ちないとこあるんだよね。
だってさ? ここまで度重なる偶然ってある?
ないよねえ。
芦沢さんを信じていないというわけじゃないけれど、これから一緒に仕事していくうえで、やっぱり自分でも確かめておいたほうがいいと思えた。
さっきゼロか100かと言った前田さんに感化されたわけじゃないけれどさ。——いや、あきらか感化されてるのだけど。
可能性として、わたしの中でまだゼロじゃないんだよね。スッキリしない。
だからゼロに。
そして携帯を取り出し、今度はホテルから見えない場所でアドレスを開いた。
「——あ、ママ? わたしだけど。ちょっと聞きたいんだけど、向こうに住んでいたとき、隣にヒロっていたじゃん? 苗字ってなんだっけ?」