(A) of Hearts
フェイスアップカード
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ママにヒロのことを電話で聞いたけれど、わかったのは芦沢じゃないってことぐらいだった。
けれどそれは可能性ゼロってことだ。
それ以上でも以下でもない。
黒か白でいえば白。
「うわあー…、どうしよう、これ。やっばい、怒られちゃう」
そしてあれから数日ながれ、入社式を終えた新入社員たちの新しい顔ぶれで会社に活気が溢れるなか、まだ新米秘書のわたしも負けじとバタついていた。
とにかく仕事の要領がつかめず、なにをするにも時間が掛かってしまう。大きなミスこそしていないけれど、小さいミスなら山のように。
先々週の金曜に営業の藤崎さんと食事の約束をしていたけれど、そんな時間なんて取れるわけもなく。
休日を返上してまで、自宅で資料の整理とスケジュール管理に追われてしまった。
いつか優雅な秘書ライフがあるのだろうか、なんて思うほど毎日がバタバタ。それはもちろん芦沢さんも同じで。
「——専務」
これまで通訳に頼っていた会議は芦沢さん頼りな形になってきている。
「専務?」
「ああ、悪い。少し考えごとしてた」
「お腹が空きすぎると思考能力が低下しますもんね。よければ、どうぞ」
フッと笑って、わたしの手にある袋を覗き込んだ芦沢さんは、そこからおにぎりをひとつ取り出して顔をしかめた。以前、邪道といったマヨ系のおにぎりだ。
「ご丁寧にどうも」
「だけど美味しかったんですよね? 全部食べていらしたし」
「そこそこな」