(A) of Hearts

だってじつは今日、密かに24歳の誕生日だったりする。

あまりにも目まぐるしく忙しかったせいで、マメな友香さんや友だちのおめでとうメールで気づいたんだけれど。

ここんとこずっと飲みに行ったりしないで毎日真面目にお勤めしていたからさ。自分へのご褒美。

誕生日に専務と一緒にいる時間を。
なんてね。

だけど今日だけ。
これぐらいなら、いいよね。


「——館野さん。いいことでもありましたか?」

「えへ。内緒ですう」


社長秘書の今井さんに鋭く指摘されてしまったほど、わたしったらニヤけてたみたい。

集中、集中!!


「それじゃあ、さっき専務に怒られるって言ってたの。あれも大丈夫だったんですね?」

「あ!!!!」


うわ!そうだった!!
そのために、わざわざおにぎりという賄賂を用意したんだったよ!忘れてた!


「なあ館野。これ、定時までに終わるのか?」


そして執務室。
さっきと同じ体勢の芦沢さん。
おにぎりは全部食べたようだ。

絶対に怒られると思っていたけれど、芦沢さんは束ねた書類でトントンと机を叩いてから、わたしを見上げた。


「……終わります」

「声が小さいけど?」

「大丈夫です」

「あと50分で終わるんだな?」


うう。
そう言われると自信ない。
過ぎるかもしれない。


「どう考えても無理だろ」

「——はい」


やっぱり無理か。
明日使う大事な資料だしね。いまさらこんな凡ミス。

大事なところがミスプリされて飛んじゃっているの全然気づかなかったよ。

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