(A) of Hearts

「いま何時?」

「7時回りましたね」

「もうそんな時間。それじゃあ行くか。折角早く終わったのに悪かったな」

「いえ、少しでもお手伝いできればと思っていますから構わないでください。なんでも申し付けてくださいね」


この現状だと、なかなか婚約者とも時間を作れないんじゃないかな。

だけどもしかして、もう一緒に暮らしているかも。

なんとなくそれは、訊くタイミングがないのではなく訊いていない。情報として必要であれば教えてくれるはずだし。

おそらくこれから専務と連絡が取れないときの緊急連絡先として、いずれアヤさんと連絡を取り合うことがあることもあるだろうから、いまあえて尋ねなくてもいいかなと。


「あ、専務!!こちらへどうぞ」


宴会場所は会社を出て5分ほど。
着いたのは7時半過ぎ。

ここは3階建てのビルが全部店舗になった大きい店で、2階と3階に宴会場がある。うちの会社がよく利用するところだ。


「館野さーん」


なんだかすでに揉みくちゃ状態。
受付をやっていたのもあって、そこそこ顔が広いわたしは、思いもよらないとこから名前を呼ばれた。


「こんばんは」


だけど誰が誰なんだか。
ごめん、覚えてない。
すみませんって感じ。


「館野さん。こっち空いたから、どうぞー」


見れば藤崎さんの隣が空いている。というか、隣の人を無理矢理どけた。


「ほら館野さん」


見失った芦沢さんを探してみれば、芦沢さんは芦沢さんで取り囲まれていた。


「では。失礼しまーす。わたしに構わず、みなさんどうぞ飲んでください」

「まずは館野さんの駆けつけ一杯でしょ?」

「今日は専務のお供ですから。飲まないですよ」

「まあまあ。ほら、専務も飲んでるじゃん」

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