(A) of Hearts
あ、ほんとだ。
大丈夫なのかな。
だけど芦沢さんって、やっぱり凄いなって思う。
世話しなく動いているようには見えないのに、新入社員の元へ回っていたり、それから年配の元上司の輪に溶け込んで、そしてあとは満遍なくあちこちに混ざる。
こんなの、なかなか出来ることじゃないと思う。
というか普通周りがそれに気づいて気を遣う。
パーティーのときにも思ったけれど、芦沢さんって人に溶け込むのが凄くうまい。
まあだけど、あの強引な前田さんだって丸め込めちゃうほどなんだもん、よっぽどなんだろうな。
「ねえ館野さん、それでさ」
あ、でも。
ちょっと待って。
「館野さん??」
やっぱり。
「藤崎さんすみません。ちょっと失礼しますね」
そしてわたしは芦沢さんの元へ。
いつもと変わらないように見えるけれど、どこか違うように見える。
「——専務。岩井さまから、お電話です」
思いついた適当な名前。
もちろん電話なんて掛かってない。
「急用だそうです」
「——わかった」
そして断りを入れて席を立つ芦沢さんと共に、わたしも外へ出た。
「で。誰なんだ岩井って」
「——大丈夫ですか?」
「なにが」
「体調が優れないようですが」
ほんの少しだけ目を細めた芦沢さん。
そして空気を洩らすかのように、どこか呆れたようにふっと笑う。
「ありがとな。ちょっとさすがにキツかった」
「ですよね? グッジョブですよ、わたし」
「調子に乗るなよ」
そう言って息を吐き出し首を鳴らした芦沢さんは腕時計に目をやった。