(A) of Hearts
とか思い出している場合ではない!
やばいよ、ほんと。しかも自分からもしちゃったし。
あうう…。
だけど芦沢さんて、ああいうシチュエーションになったら誰にでもしちゃう軽いタイプなのかな。そうは見えなかったけれど、どうなんだろう…。
うーん…。考えてもわかるわけない。——というか、わたしが男慣れしていないから知らないだけで、芦沢さんに限らず男女があんなところで、あの体勢になってしまえば、きっと誰にだって事故が起こるんだよ。
そうだ!そうに決まっている!!
「さむっ……」
さっきまでの火照りが夜風に冷やされてしまった。
くるりと向きを変えて非常階段を駆け上がる。
バキバキに割れてしまった携帯だけれど電源は落ちていない。プライベートのほうの携帯だし機種変したところだし。だけどこれぐらいならまだ使えそう。
「——ふう」
さすがに疲れた。
結構上りはキツイ。
そして耳を澄ませながら息を整えつつ、ノブに手を掛けてゆっくりと回す。
「わ…っ!」
「探したじゃん」
ドアを開けたらそこに藤崎さんがいた。
「どこ行ってたんだよ」
「急な連絡が入ってバタついてました」
「専務は?」
「会社に戻られました」
「あ、そうなんだ? それはそれで残念だなあ」
いつもと変わらない様子の藤崎さんに、こっそり胸を撫で下ろす。
もしかして、なにか感づいているのかと思ったよ。
「このあと何人かでカラオケ行くことになったんだけれどさ? 館野さんも一緒に行こ」
「あ、折角ですけれど今日わたしは専務のお供でしたので。部長に挨拶したら帰ります」
「それならどっか飲み直さない? ふたりで」
ふたりで?
いまから?