(A) of Hearts
「そろそろ帰ろうか」
その声に時計を確認。
「うわ! もうこんな時間!?」
もうすぐ11時半。
びっくり!
そんなに飲んでいないけれど大丈夫かな。
少し心配になりつつ足を踏み出せば足許は全然平気。しっかりしてる。
お代は藤崎さんが支払ってくれた。
「ご馳走さまでした。だけどすみません、お礼のはずなのに」
「いいの、いいの。つぎ奢って」
並んで大通りを駅のあるほうへ向かう。
まだ最終には時間的にも余裕があるので喋りながらまったりと歩いた。
するとわたしたちの歩く少し前に、タクシーがハザードをたいて横付けされる。
藤崎さんが手を挙げたのかと思ったけれど、そうじゃない。
よく見れば空車ランプも消えていた。
「だけどさあ館野さん」
「はい?」
「俺と付き合ってよ」
「——へ?」
「彼女になって」
「えええ?」
な、なにを突然。
しかもサラッと。
驚いて藤崎さんを見れば首を傾げている。わたしの返事を待っているようだ。
気が緩んでしまっていたのかな。
ここに持ち込まれる前に避けたかった。
これから気まずくなるのも避けたいし…。なんて曖昧なことを考えると、余計な恨みを買うんだよね…。これまで伊達に人生を歩んできたわけではない。学ぶところは学ぶ。
男性と深い関係にはなったことがないけれど、これまで何度かこういう場面を経験しているのもあって、中途半端な態度が一番いけないとは思っている。
「あの……」
さて。
なんて断ろう。