(A) of Hearts

「申し訳ございません!よく見えないので貸していただけますか…っ」


手に取る。
どう見ても"送るから乗れ"と書いてある。
それ以外とくになにも見当たらない。

なんで、こんな。


「どうだ?」

「——ほ、ほんとですね」


声が上ずってしまう。
だって意味がわからない。
頭の中がハテナで埋め尽くされていく気分だ。


「直せるか?」


どうしよう。
話を合わせればいいのかな。


「どうだ?」

「——い、いますぐ!!」


そして振り返り、すこし距離をおいた場所に立っている藤崎さんへ事情を説明する。


「大変だな」


労いの言葉をもらってしまった。
ちょっと罪悪感。

騙している気分。
騙してるんだけど。


「なんかすみません。気をつけて帰ってくださいね…っ」

「終わったらメールでいいから返事ちょうだい。このままだと寝れないし」

「え?」


ああ、そっか。
まだ返事してないんだった。


「じゃあ連絡待ってるし」

「あ、はい!わかりました了解です!ご馳走さまでした!」


ワタワタしながら頭を下げば、藤崎さんは専務に向かって頭を下げ。それからバイバイと言って駅へ向かって歩きだす。

なんか悪いことしちゃったかな。
いやいやいやいや、わたし何様よ?
そんなことを思ったら、また余計な反感を買うってば!しっかり!

藤崎さんを目で追ってる女性を何人か知っている。巻き込まれるのはごめんだよ。

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