(A) of Hearts
「ひっっ!!!」
タクシーのドアが開いた。
芦沢さんはすでに奥へ移動している。
「失礼いたします」
引き腰気味な感じでそろりと乗り込み体勢を整えていると、思いのほか結構な勢いでバタンッとドアが閉まった。
ビクッと反応してしまう。
というか驚かせないでよおお。
心臓が縮み上がってしまう。
「おつかれさん」
「——あ、はい。専務もお疲れさまでした。お体の具合はいかがでしょうか?」
「そこそこ」
そこそこって。
「——ええっと。なんか、申し訳ございません。というか偶然ですね!」
「うざいな」
「え!!!」
「酔っ払い」
「そんなに飲んでませんよ!?」
「——あのさ。普通宴会終わったら報告ぐらい入れるだろ? チャラチャラなにやってんだよ」
あ。
忘れてたスッカリと。
「も、申し訳ございません」
だけどまさか怒られるとは。
わたしが悪いんだけどさ。
とはいえ、こんなに芦沢さんの機嫌がよくないときに遭遇だなんてツイてない…っ!乗らなきゃよかったよ。
——というか、まだタクシーは発車していないから、これは降りろのサイン? ひとこと言いたかっただけみたいな。
もう降りたほうがいいの?