(A) of Hearts

「K市の、どのあたりでしょうか?」


おっと。
忘れてたよ。
タクシーの中だった。

道を説明する傍らバックミラーの運転手と目が合う。

あれ?さっきの人と同じような気が。

だけどハッキリ顔なんて覚えていないし名前も見ていなかった。だから確証もないわけで。


気のせいかな。
そんなわけないよね?
芦沢さんを乗せて行ったんだから。


「H坂の交差点にあるコンビニの前で降ろしてください」


そしてふたたび携帯を眺めた。
もちろん返信はない。

もう読んだかな?


「——はあ」


画面がバキバキのほうの携帯からわざわざ無理して送信したのは、あのとき階段の上から落としちゃったけれど、まだ使えますというアピールも含んでいた。

気づいてくれたかな。

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