(A) of Hearts
ストレートフラッシュ
♡♡♡♡♡♡
ようやく家に辿り着いた。
もちろん芦沢さんからの返信はない。
返信不要と打ったのだし、返信があったとしても全文確認するためには仕事用の携帯に転送しなくてはならないほど割れているのだから、ないほうがいいんだけど。
だけどもしかして。
と、何度も確認してしまう。
あるはずないのにさ。
そんなのわかっているんだけどさ。念のため。
「——寒い」
酔いも醒めちゃったよ。
住み慣れたここは、通っていた大学の近くにある学生向けのマンション。
通勤は乗り継がないといけないけれど、そこまで不便を感じたことがないので住み続けている。
大学のころなんかはゼミの子らやサークルの子らが遊びにきたし、自宅通いの子らの終電を逃した際の避難所にもなっていた。
それぞれ就職したりなんなりで疎遠になってはいるけれど、たまに集まっては近況を報告しあう関係は続いている。
そういえば秘書は社交的なほうが向いているといわれたけれど、自分がそうなのかと問われるとよくわからない。率先して招集するタイプではなく、いつのまにかメンバーに入っていることが多い。
そのため嫌味を込めて八方美人といわれたこともある。
だけどそういわれたところで自分にはその自覚がないから悩んだこともあった。べつに無理して笑顔をつくっているわけではないのだ。キリッとした表情をつくるのが苦手なだけ。