(A) of Hearts
「コーヒーならご用意できます」
「いやここで」
「ですが寒いです。それに近所迷惑です」
ゴホゴホと勢いよく咽た芦沢さんは、それから黙りこんだ。
「あ、あの」
「じゃあ少しだけ」
「あ、はい。どうぞ!」
なんかちょっと変な汗出る。
「温かいコーヒーをお持ちします」
「気を遣わなくていい。話が終われば、すぐ帰る」
「ですがコーヒーぐらい。あ、そうだ。灰皿もありますよ!」
「……煙草吸うのか?」
「わたしは吸いません。友だちが来たとき用なんですよ」
そして芦沢さんが座った目の前にあるテーブルに灰皿を置いた。
「秘書を変えようと思う」
な。
「——え?」
「外部秘書を雇おうと思っている」
ちょ、ちょっと待って。
「う、嘘ですよね? そんなの冗談ですよね?」
「いや冗談じゃない」
「……」
やだ。
なんで。
「申し訳ございません。わたし物凄く反省しています」
「悪いが決めた」
「イヤです!!!」
「館野がそう言っても、もう決めた。それにいくら館野が頑張ると言っても俺の仕事の邪魔をする。それは会社の損害に関わることだ」
「——っっ」
イヤ。
イヤだよ。
だけど言い返せない。
足を引っ張っているのには違いないからだ。芦沢さんに余計な仕事を増やしている。