(A) of Hearts
「早くて週明け、遅くとも月末までには正式に発表しようと思う」
「……はい」
頭の中が真っ白。
だけどいくらここでわたしが食い下がったとしても、芦沢さんが嫌なのだったら仕方ないことなわけで。そうは思っているけれど。
「携帯鳴ってるぞ」
その言葉にテーブルの上にある携帯に目をやった。
プライベートのほうの携帯が小刻みに振動しながら、どこかお気楽なメロディーを奏でている。
ディスプレイに表示されているのは藤崎さんだ。
ああ、そっか。
すっかり忘れていた。
連絡すると言ったのに。
「——それじゃあ、失礼する」
鳴り響く携帯に視線を奪われていると、芦沢さんがそう言って立ち上がる。
「ま、待ってください!」
「切れるぞ」
「お願いします。お待ちください!」
すると大きく息を吐き出す芦沢さん。
なんだかわたしは妙に冷静なフリをしてしまう。
そんなつもりもないけれど、そうせざるを得ないというか、とにかく思考がついていかない。
「専務」
「——電話に出ろ」
「イヤです」
「おい館野」
「お願いします」
「……」
するとわたしの携帯を手にした芦沢さん。
なにも語らず着信を押してから、それをわたしの耳にあてる。そして腰を上げた。