(A) of Hearts
「——もしもし」
『ああ、館野さん? 申し訳ないです勤務外に』
「いえ」
『芦沢くんからオッケーが出ましたよ。館野さんのことも覚えてらしたので、ほぼ即決でした』
なんか部長、わたしに対してもう敬語になってるし。
しかも即決ですか。
「そうですか」
『ずいぶん周りが賑やかですね。このまま電話しても大丈夫ですか?』
「あ、はい。じつはいま四條さんとH店にいるんですよ」
『すぐそこにあるH店ですか?』
「はい」
すると部長の声が遠ざかり、そしてなにやら誰かと喋っている。
『それではいまから芦沢くんと向かいます』
なっ!?
「あ、しかし、いまから出るところでして!申し訳ございません…っ」
じょ、冗談やめてよ。
せっかく解放感に浸っているのにっ。
『次期専務のお言葉ですよ』
「ですが、もう帰ります」
「ちょっとチー。あんた、なに言ってんの? まだわたし帰らないからね」
「友香さん……っ!」
ああ、もう!
いまの絶対聞こえたよ。