(A) of Hearts

『それって専務?』

「——違いますよ」


だけどさ、公私混同もいいところだよね。
社会人としてありえない。


「てか、待ってくださいよ。なんでわたしの好きな人が専務なんですか? ビックリしちゃいました」

『なんだ、てっきり』

「そんなわけないです!」


そんな言葉とは裏腹に、さらに溢れ出してしまう涙。
なんだか止まらなくて視界を遮ってしまう。


「!!??」


なに。
なんで。


『そっかあ。だけど好きな人ってことは片思い中なわけ?』


そんな藤崎さんの言葉に答えることができなかった。
だって口を塞がれてしまったんだもん。
芦沢さんに。


『あれ? もしもし館野さん?』


なにが起こったの?


「なんか携帯がバグってて。声が途切れちゃってます」

『いまは?』


いまは。
いま芦沢さんは。


「すみません。なんか電源もヤバイです。だからもう切りますね」


そのまま電話だけでなく、電源まで一緒に切った。

だって。
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