(A) of Hearts
「——どうして、キスですか?」
「悪い」
「理由をお尋ねしています」
芦沢さんの目をしっかり見て口を開いたはいいけれどガクガク震えてしまう。
「専務!」
「したくなったから」
「……なんですかそれ」
「悪い」
「意味が分かりません」
「泣かないでくれ」
わたしの中で何かがブチッと切れてしまう音がした。
「なんなんですか!!?」
「——マズイだろ。こういうの」
「はい?」
「キスがしたくなったから」
なにそれ。
なんなの。
「だから秘書を辞めてほしい」
そして芦沢さんは頭まで下げた。
わたしはそのまま固まってしまう。
さらに視界も滲む。
「悪いな館野」
返事なんて出来ない。
だって本当は抱きつきたいもん。
「おつかれさん」