(A) of Hearts
しかしわたしは、芦沢さんのどこに惹かれたのだろう。イラつくことも多いよ? だけど仕事に対する姿勢や判断力と決断力の的確さ。あとは社員に対する気配りとか。
わたしはそんな専務の秘書として少しでも手助けがしたくて…。
ううん。
そんなんじゃない。
それだけじゃない。
煙草を吸う仕草や、ふと見せてくれる笑顔。理屈なんかじゃなくドキドキした。
「……」
というか、あれ?
返事がない。
いないのかな?
再度ノックしてみる——も、なにも聞こえない。
「失礼いたします」
ドアをそろりと開けて中の様子を伺ってみる。
もう一度声を掛けてみたけれど、なにも変わらない。仕方がないので奥へ足を進めてみた。
「あ……」
デスクに座ってる。
というか背丈がいつもの半分ぐらいしかない。
腕組んで頭うな垂れて。
そして長い足はデスクに放り出されていた。
「専務」
こんな姿を社員に見られたらどうするつもりなんだろう。だけど普段なら、こんなことをするとは思えない。きっとそうも言ってられないほど、よほどキツイんだろうなとも思えた。
「……専務」
デスクの脇をすり抜け歩み寄る。
どうやら寝ているみたい。
だけど、なんだか浅い呼吸が続いてる。
「失礼いたします」
そして芦沢さんのおでこを手を触れてみた。
「——熱い」
「……」
するとぼんやり目を開けた芦沢さん。
眩しそうに目を細め、それから口を開く。
「なにやってんだ、ちぃ」