(A) of Hearts





え。



いまなんっつ、なんて言った?
ちぃって言わなかった?


「ちぃ、とは?」

「……は?」

「専務?」

「——俺、いま頭イカれてるな」


そしてどこか邪魔そうに足を引き摺り下ろした芦沢さんはゴホゴホと咳き込んだ。


「だ、大丈夫ですか!!?」

「館野。なぜお前がここにいる」


聞き間違いなのかも。
だけど確かに聞こえたと思う。


「今日は休みのはずだろ?」


やっぱり空耳だったのかな。


「専務。今日はもう帰って休んでください」

「無理だろ」

「このまま続けるほうが無理です。スケジュールは、お任せください。きちんと立て直しますから」

「……」

「代行立てましょうか? それともタクシーにいたしましょうか?」

「——頭痛いな」

「専務?」

「タクシーで」

「わかりました」


わたしが外線ボタンを押してタクシー会社に連絡を入れているあいだ、芦沢さんは手許にある資料をパラパラとめくっていた。


「5分ほどで着くそうです」

「——そうか」

「みなさんにも連絡しなくちゃですよね。第一会議室ですか?」

「ああ」


内線を入れて事情を説明し会議は中止に。
あらためてスケジュール調整をするとの旨を伝え受話器を置く。

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