(A) of Hearts
「みなさん安心されてましたよ?」
「一番若いのに情けない」
「体調管理をしっかりなさってください」
いまだ資料から目を離さない専務へ声を掛けつつ時計に目をやった。
「そろそろ降りましょう。下まで荷物をお持ちいたします」
「いや自分で持つ」
「わたしが持ちます」
「——じゃあ、それ」
芦沢さんがが指差したのはダンボール箱ふたつ。
中に山積みされた資料。
「これ全部でしょうか?」
「ああ」
持てるかな。
しかもふたつ。
重ねればいける?往復すればいいか。
「ひとつは俺が持つ」
「ですが」
「これぐらいは持てる」
「——ありがとうございます」
ちょうど両手で抱え込めるほどの大きさではあるけれど、抱えれば少し前が見えにくい。それに結構重いし。
だけど、そんなことも言っていられない。
だって同じ大きさのダンボールをもう一個、体調不良の芦沢さんが持っているのだし。
ていうか、
「申し訳ございませんっ」
「おお」
エレベーターのボタンは芦沢さんが押してくれた。
それからは、とくに交わす言葉もなくて。——というか肩にかけている自分のバッグがずり落ちてきて、なんだかわたしいま、それどころじゃない。
そして到着したエレベーターに揃って乗り込んだ。
「だけど専務これ、こんなにたくさん、どうなさるのですか?」
「家で目を通す」
これ全部?
データ化されてない過去の資料にまで?
「申し上げにくいですが。体調を治すことに専念するべきです」
「横になりながらでも見れるだろ」
すると芦沢さんはそういって、わたしの肩から今にもずりおちそうなバッグの肩紐を、ひょいと上げてくれた。
心臓がびくんと跳ね上がる。