(A) of Hearts
「ヒロ!? どうしたの?」
開いたドアが遮って、わたしからは見えないけれど女の人の声。
心臓がドクンと一度強く胸を打ち、それからドクドクと。
「——アヤ」
こ、婚約者だ。
うわわわ。
「今日は遅くなるって言ってなかったか?」
「うん。いまから出るとこ」
「そうか」
見たいけど見たくない。
見たくないけど見たい。
だけどっっ!
なんとなく見たくないかな…っ!
「それでヒロは? どうしてこんなに早いの?」
「体調悪いから帰ってきた」
「ほらあ。だから言ったのに。だけど、すごい荷物ね」
そしてドアが大きく開いていく。
まるでスローモーション。
わたしの視界に——、
「——こ、こんにちは!!」
きゃー!
見ちゃった!