(A) of Hearts

「あの、わたくし、秘書の館野と申します」

「こんにちは」

「はじめましてっ」


ど、ドキドキドキドキ。
ちゃんと喋れたかな。


「もー、駄目じゃないヒロ。こんな大きな荷物、女の子に持たせたら。ねえ?」


あわあわあわ。
わたしを見ているよ!?


「い、いえいえいえいえ!!頑丈に出来ておりますので、こんなの全然大丈夫です!!!」


どうしよう。
なんかホント。
ごめんなさい。

こんなメイクもまともにしないわたしが芦沢さんのことを好きだなんて、ちょっとでも思ってしまったことを許してくださいっっ!!!!!と、誰かにお祈りしたくなるほど、とても綺麗な人だ。


「どうぞ館野さん、上がってください」

「——へ?」

「疲れたでしょ? コーヒーでも飲んで行ってください」

「あ、いえ」


玄関先ですらテンパっているのに。
そんな、そんな、


「まだ出なくて大丈夫なのか?」

「少しだけならね」

「構わなくていいよ」

「だけどさー」

「時間ないだろ」


あれ?
なんかわたしのせいで揉めてる?
そうじゃないかもしれないけれど、そう感じてしまう!


「あ、あの、わたしのことでしたら、お構いなくお願いいたします。すぐ帰りますので」

「どうぞ上がってください」


そしてアヤさんは、オロオロするわたしに向かって笑顔で部屋の中へ姿を消した。


「……」


え、上がるの?
どうすんの?

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