(A) of Hearts
「ああ、悪い」
自分の荷物を玄関の中へ入れ、わたしが持っていた荷物を受け取る芦沢さん。
「で。コーヒー飲んで行くのか?」
「——あ、いえ」
お邪魔だしね。
というか、早く帰りたいっ!
顔を合わすかもしれないとは思ってはいた。なのに実際会うと、なにも考えられない。
「お気持ちは大変嬉しいのですが。帰らせていただきます」
「オッケ」
ゴホゴホッと咳き込んだ芦沢さんは、それから部屋の中へ身を入れアヤさんに向かってなにかを言った。
「行くぞ」
「——へ?」
「下まで送る」
「えええ?? 必要ありません!!」
「送る」
「ひとりで大丈夫ですっ」
「部下のくせに我儘を言うな」
これのどこが?
だけどさ。
なんかこれってデジャブ。
『上司捕まえて我儘とか言うな』
ああ、これか…。
意外と根に持つタイプ?
「専務の我儘と一緒にしないでください」
「それなら特許でも取れ」
「!!??」
そして歩き出す芦沢さん。
仕方なくわたしも続いて、その後ろを歩いた。
「綺麗な方ですね」
「どうも」
「いまのは専務に向けた言葉じゃないです」
「当然だろ」
あんなに綺麗な人がいるのに、わたしにキスしただなんて。
そんなの事故以外にありえないじゃんか。
なんなのさ!!!