(A) of Hearts
「——なに、怒ってるんだ?」
「べつに怒っておりません」
「怒ってるだろ」
「気のせいです」
そしてエレベーターが開く。
わたしは芦沢さんより先に乗り込み、入り口で大の字に大きく手を広げて進入を妨げた。
「ここで結構です。それから化粧もしない目に毒な顔を恥ずかしげもなく曝け出して申し訳ございませんでした。新しい秘書が決まるまで、しばらくはわたしで我慢してください。では」
「おい」
「お大事になさってください」
そして頭を下げる。
眠気を押し殺しながらでも受付嬢をやっていた成果なのか、我ながらスマートにこなせたと思う。
なのに、
「——専務がそこをお持ちになっているとドアが閉まらないじゃないですか。早く戻って休んでください」
「どけ」
「な!!???」
な、ななななにごと?
ちょっと!!!
「専務!?」
芦沢さんが無理矢理乗り込んできた。
そして"閉"のボタンを押す。
「なにしてるんですか!?」
「下まで送るって言ったろ」
「で、ですけど!」
「うるさい」
なによ。
なんでよ。