(A) of Hearts
ふと、前田さんが頭をよぎった。
だってたしか、そのまま結局は着信拒否にしなかったんだよね。
「こんにちは。SK会社、館野です」
『なーんだ。繋がるんじゃん』
この声やはり。
『だーれだ』
「こんにちは前田さま」
『ビンゴ〜!番号登録してくれたんだ?』
「いえそれは…」
『あ、そうなの? じゃあしといてよ。だけどさっすが秘書!一度聞いた声は忘れると印象悪くなるからね』
軽いというか。
どう対応すればいいのかわからない。
こんな人の秘書をやっている高嶋さんは大変じゃないのかな。
「どのようなご用件でしょうか?」
『食事でもどう? いま東京にいるんだよね。ドタキャンくらって超ヒマでさ』
は、はい?
「——申し訳ございません。お誘いのお電話ありがとうございます。しかしわたしは芦沢の秘書であるだけです。プライベートなことでの私用電話は控えていただきたいです」
『でも秘書クビになるんだろ』
なんで知ってるのよ。
芦沢さんから聞いたのかな?
「まだ秘書です」
『わかった。じゃあプライベートのほうの番号教えて掛け直すから』
「前田さま」
『なにー?』
「……」
調子狂っちゃう。
それに、いま前田さんの会社とうちは取引もないけれど、いずれもしかするともしかして関係が出てくるかもしれない?
そうじゃなくても芦沢さんと古くから付き合いがある方なのだし、ここはどう応対するのがベストなのだろう。
『あ、昨日アヤに会ったんだって?』
え、待って。
なんでそれを前田さんが。
ひょっとしてドタキャンは体調の悪い芦沢さん絡みとか?