(A) of Hearts

『もしもーし。応答願いまーっす』

「ええ、はい。お会いいたしました」

『アヤで通じるんだ?』

「ご婚約者のお名前は存じております」

『そりゃそうだ』


なんなの。


「——あの、前田さま」

『なに?』

「……」


聞きたいことなら、いろいろとあるんだけどさ。

たとえば前田さんはわたしのことを芦沢さんの好みのタイプといってたけど、アヤさんとわたしは似ても似つかない感じだった謎とか。

プライベートなことばかりだし躊躇ってしまう。前田さんとの距離感が全然掴めないよ。


『じゃあ1時間後にS駅で』


え。


「あ、あの…っ」

『どうせ今日一日スケジュール調整に追われてたんだろ? 息抜き息抜きー』

「なぜそれを前田さまがご存知なのですか?」

『ヒロがぶっ倒れて会議潰したんだから考えなくてもわかる』


ここまで知ってるってことはドタキャンは芦沢さんとの予定なのだと思えた。

仮に違ったとしても密に連絡を取り合っているのには違いない。


『超忙しいはずのこの俺が、ひまっくすー』

「アハハ」


とりあえず愛想笑い。
だけどそうは聞こえないはず。たぶん!


『あのさ…。じつは俺さ……。好きな子がいるんだよね……。その相談にも乗ってもらいたいんだ……』


急に前田さんの声のトーンが低くなった。


「それはわたしに、恋愛のご相談ということでしょうか?」

『そうなんだ。恥ずかしい話なんだけどさ…。ご飯も喉が通らないぐらい悩んじゃって……。もうゲッソリ。誰かと一緒だと少しは食べられるんだけど…』

「——前田さま」

『叶わぬ恋なんだ……。だって相手は同性だからさ』

「!!!???」

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