(A) of Hearts

「二度目まして」


そう言って微笑む前田さん。
真意が読めなくて、笑顔がちょっと怖い。


「——こんにちは」


「じゃあ行こうか」


「はい……」



前田さんをすぐに見つけることが出来たのは背が高いせいもあるけれど、人の視線を引き寄せるオーラでも漏らしているのか。前田さんのほうをチラチラ見ている人が多くて、すぐに見つけることが出来た。

奇抜な服を着ているわけでもないのに、視線を集めてしまうのはなぜだろう。

前に見たときはスーツだったけれど、今日はラフなスタイルで年よりうんと若く見えるし——というか、何歳か知らないけど。


「何じろじろ見てんの?」

「あっ、失礼いたしました」


うわわ。
どんな人間なのか観察してしまってたよ。
だって行動が読めないんだもん。

それにさっき芦沢さんにも電話していたし、なにか裏があるんじゃないかなって思ってしまう。

それを聞いていいものかどうなのか。

だってゼロか100に拘っている前田さんなのだし、下手にわたしがここで突っ込むと面倒なことに巻き込まれかねない。朝イチそれだけの用件で電話を掛けてくるような人なのだし。


「俺に見惚れてた?」

「ち、違います」

「あはは」


そしてわたしの前を横切るように通り過ぎ歩きはじめる前田さん。


「あの、前田さま」

「聞きたいことあるならついてきて」


振り返りそう言った前田さんは、ふたたび少し微笑んだ。

電話でのバカっぽい印象とは違って、これはどう形容したらいいのかな。

出来る男のオーラっていうのか——、自信に満ち溢れた余裕ある仕草というか…。

だけどどこか小生意気にも見えてしまうのは愛嬌のある顔の創りのせい?

前田さんをじっくり観察してみたけれど、わたしがこれまで受付で対応してきた人たちの中に、こんな人はいない。というかこんな社長見たことない。

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