(A) of Hearts
「なんだよー。俺たちの邪魔すんなよなー」
ちょ。
なんでそうなるの。
「じゃあな」
そして携帯を切った前田さんは口を結びつつ口角をひょいと上げ首を傾げた。だけどその表情とは裏腹に、どこか刺すように鋭い視線を投げかけてくる。気のせいじゃ…、ないと思う。
「来るか来ないか。面白そうだし賭けてみない?」
来るわけない。
というか、来てほしくないんだけど。
「さあ、どーっちだ」
「——あの、前田さま」
「どっち?」
持っていたフォークを静かに置きナプキンで口を拭う。それからワイングラスに手を掛け、それをくるっと回した。
「応えろよ」
「——来ません」
「来る」
「来ないです」
「来るよ」
「……」
「来るほうに1億。だけどそれ、キミに払える?」
一億って。
バカじゃない!?
子どもじゃないんだから。
——とは思うけれど、それがどれくらいのものか知っている前田さんだろうから、なんかほんと性質(タチ)悪い。
なにも言えず言葉を飲み込んだ。
「あのさー? 言っとくけれど一億なんて俺でもすぐに用意できないよ? てかいまのって、笑う所だったんだけど」
な。
待ってよ…。
話半分で聞けばいいの?
どこまで真面目に聞けばいいのかわかんない。