(A) of Hearts
「面白くなかった?」
「——はい」
「おっかしーなあ」
自分の携帯に目を落とした。
着信はない。
「そうだなあ。じゃあ、もしヒロが来たら?」
「来ないです」
「来たらの場合」
「……」
来るはずない。
来る理由がない。
そう思ってはいるんだけれど、突然うちに来たり、下まで送るとか言い出したり。
そのくせ不機嫌で。
それにキスとか。
そのせいか"来ない"というよりは、来てほしくないと強く思ってしまう。もしかしたら来るんじゃないか、なんてのは考えたくもない。
「前田さま。なぜ芦沢に連絡したのでしょうか?」
「俺がさっき言ったこと、ちゃんと聞いてなかった?」
「申し訳ございません」
「同じ答えになる質問は避けろよ。非常識だな」
「——失礼いたしました」
どれのこと?
よくわからないんだけど。
「まだ時間もある」
それはメイン料理が運ばれてくるまでのことを指したのか、それとも芦沢さんが来るまでのことを言ったのか。ワイングラスを傾ける前田さん。
「さ、いまからヒロが来たことを前提として話そう。まあ100来るんだけどさ? もしかしたらゼロかもしれないから、まだ前提ということで」
「——わたし、帰ります」
「おっと?」
「帰ります」
「逃げちゃうの?」
「……」
「だよねー。来たら上司失格だし。そんな姿は目にしたくないってわけかあ」
「……違いますよ」
「違う? そんなまさか。来るかもしれないと思ったからこそ帰りたいんだろ?」
「そうではないです」
「体調悪くして会議潰して。それでも、もしここにわざわざ出て来たら、ヒロは俺のことがよっぽど嫌いなのかな。それはそれでショックだなあ」
こんなのって理解できない。もしかして芦沢さんを潰そうとしているとか?
それとも私怨かなんか?