(A) of Hearts

「前田さまは芦沢が、ここに来てほしいのでしょうか?」


わたしの言葉に手を止めた前田さん。ナプキンを手にとって口を拭く。


「来てほしくない。むしろ頼むから来るなと念じてるぐらい」

「——だったら、なぜ」

「キミを辞めさせるから? ムカついて」


意外な発言。
というか意味がわからない。
前田さんはどうしたいの?


「あいつが、ヒロが、秘書を変えるだなんて怠けたこと抜かすから、こんなことしてるんだよねえ。やだやだ」

「わたしが失敗ばかりするから変わるのです」


だいたいそれに、前田さんはわたしに秘書を辞めろと言わなかった? 自分のところで雇ってあげるからって言ったじゃん。わたしが秘書を辞めるだなんて、前田さんにとったら願ったり叶ったりじゃないの?


「本当にそう思ってる?」

「はい」

「な、わけないよね? だって経験の浅い秘書のミス? そんなのは大したことない。それとも会社が傾くほどの大きなミスしたのか?」

「……それは、」

「ただキミが邪魔なだけだろ」


そして目を細める前田さん。
ほんの少し眉を寄せた。


「さっきもいっけどさ、ゼロじゃないんだって。頭悪いのか?」


芦沢さんが、わたしに惹かれてるとでもいいたいのかな。

とはいえキスはされたし…。
でも、でもさ、


「——そうやって黙り込んだところをみると本当は理解しているのでは?」


なにも言えない。
だってわからない。
なので静かに頭を振った。


「言葉ですべてを語らないと理解できないだなんて頭が悪いムードのない女だな。それともわざとか?」

「ち、違います」


すると前田さんは息を吐き出した。 


「俺が直接声を掛けて誘う女は、そういない。それをヒロは知ってる。だからキミを辞めさせると言ってしまったヒロならば——。残念だけど、ここに来てしまう」

「——なにを、おっしゃっているんですか」

「さあね」

「意味が、よくわかりません」

「ここまで言ってまだわからないだなんて、本気だったら引くぞ」

「わかりませんっっ!」


なんなの。
わたしがなにかした?
なにか悪いことしたの?
なんでこんなところで責められているの。

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