(A) of Hearts

♧♧♧♧♧♧



「ところで専務。もうここで結構です」

「送るよ」

「駄目です」


こんなふうに出てきてしまったことを、帰ったらなんていいわけをしようか。

前田が彼女を不安にさせることを、わざわざ口にすることはないので大丈夫だとは思うが。

だけどひょっとしたら、なにかの拍子に彼女がこの一件を耳にするかもしれない。さきに俺から言っておいたほうがいいかもな。


「ご迷惑をおかけしました」

「いや、館野は悪くないだろ。悪いのは———」

「前田さまですよね」


いや、間違いなく俺だ。
わかっている。
前田がここまでやる理由も。


「水を掛けた行為のみ。だけどあんなことは、なかなか出来るもんじゃない」


おかげで目が覚めた気分。


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