(A) of Hearts
「友香さん助けてくださいよ? わたしなに喋っていいのかわからないです」
「オッケー」
軽い。
本当に大丈夫かな…。
「すいませーん。ビールおかわりくださーい」
とりあえず飲んでおこう。
友香さんのノリについていけば、なんとかなるかもしれない。
そして運ばれてきたジョッキに口をつけゴクゴク喉へ流し込んでいると——。
「こんばんは」
ぶわっとビールが逆流しそうに。
目の前に芦沢さん、そして部長。
「こ、こんばんは」
「突然すみません」
申し訳なさそうに芦沢さんがそう言い、平均年齢をガクンと上げてしまう部長が店員に向かってビールを追加した。
「ああ、館野さん。いいです座っててください」
「いえ四條さんの隣に移ろうかと思いまして」
「そのままで構わないですよ」
羽織っているコートを脱ぎ隣に座る芦沢さん。
小さい4人掛けのテーブルなものだから肩が芦沢さんに触れてしまう。
ち、近い。
芦沢さんがよくても、わたしが無理なのに。パーソナルスペースを侵しているよ。とはいえ、きちんと挨拶はしなきゃね。
「あの、わたし、これから一生懸命頑張らせていただきます」
「今日はそういうのを無しにしましょう。はじまれば、こういう席もなかなか設けることができませんし」
「——え?」
「乾杯しましょう」
芦沢さんの声に運ばれてきた新しいジョッキをそれぞれ手にして重ねた。すると友香さんが口を開く。
「ところで、いまはまだ芦沢さんとお呼びしてもいいんですよね?」