(A) of Hearts
このことは芦沢さんも知っているはずなのに。
だけどそれには一切触れない。
それどころか敵ではないといっていた。
ううむ…。
味方には思えないだけに悩ましいんだよね。だからこの件は、芦沢さんに直接聞いてみるのがベストかな。
すると内線が鳴った。
「秘書課、館野です」
『芦沢だけど。急ぎで悪いが、いますぐ都内で落ち着いて話せる場所を押さえてくれないか? 和食がいい』
「かしこまりました。ご予定はいつでしょうか?」
『今日』
え。
マジですか。
時計を確認すれば、すでに2時。
「少々お待ちください」
慌ててお気に入りフォルダを開いた。
いくつかはブックマークしている。
「何名様で予約を入れればよろしいでしょうか?」
『3人で18時』
「折り返しますので、少々お待ちください」
『あ、館野も空けておいてくれないか? 急で悪いけど』
な、なんと。
そんなあ。
今日は相談に乗ってもらいたいことがあって、久しぶりに友香さんと飲むつもりだったのに…。
「かしこまりました」
『悪いな』
あれから芦沢さんは変わったと思う。
なにが変わったと問われると、それはよくわからないんだけれど。
そして芦沢さんと前田さんは、わたしが思っている以上に、とてもいい仲なのだと思えた。互いを尊重して認めているというか。
それは、あの日の一件もあるけれど、前田さんから毎晩のように掛かってくる電話でも感じたこと。だから敵ではないといった芦沢さんの言葉にも頷けたのにさ。ここにきてDWグループと関係してるからなあ。
それから婚約者であるアヤさんは以前妊娠したそうだ。それは前田さんとのあいだに出来た子だったとか。
これも前田さんから聞いた話なわけで。別れを選ぶ選択肢しか残されていなかったと語っていた。
だけどさ。
こんなこと、わたしが知っていいものか。
それに本当なのかどうなのか確認も出来ないし。
モヤモヤするなあ。