(A) of Hearts

「よし」


そして受話器を取って外線を押す。
めぼしいところを3軒ほどピックアップした。

ひとつは高嶋さんから教えてもらった店。
会食に選ぶ場所は個人の情報だけでは追いつかない。ネット上にあるクチコミだけで判断するのは危険すぎるのだ。

もうひとつは、こじんまりしたテーブルが4つしかない小料理屋。半年ぐらい前だったか藤崎さんに連れて行ってもらったところ。

こっちのほうが予約は難しいと思えるけれど、ここのれんこん饅頭が悶えるほど美味しいんだよね。


「あ、もしもし。今日の18時に3人で予約を入れたいのですけれど空いてますか?」

「少々お待ちください」


ドキドキ。
饅頭というから甘いのかと思っていたのに、そうじゃなかった衝撃にガツンとやられた。もう一度あれを食べたい。あわびグラタンも美味しかったし。場所もわかるからここがいい!


「お取りできます」

「あ、ありがとうございます!」


思わず頭を下げてしまう。

やったね!
ツイてる!!

早速専務に折り返し報告。


「館野です。いま予約を入れました」

『おお、早かったな』

「ええ、はい!キャンセルが出たそうで1軒目で運よく決まりしましたっ」


あれ。
だけど3人って?
わたしと芦沢さん、あっちはひとり?


「——あの、すみません。いまさらの質問ですけれど、先方はおひとりなのですか?」

『ああ、お忍びらしいから』



お忍び。
なんか妖しい響き。誰だろ。


「わたしがご一緒してもよろしいでしょうか?」

『先方様たっての願いだから』


ん?
ますます謎。


「お名前をお聞かせいただけますでしょうか?」

『前田』

「え……」


嘘でしょ。

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