(A) of Hearts
「謝りたいそうだぞ?」
「……あの、申し上げにくいのですが、公私混同していらっしゃいませんか?」
「前田とうちは直接取引がないけれど社長とはゴルフやオフで一緒に酒を飲むほどの関係だ。だから今回は接待として引き受けた」
「前田さまは、お顔が広いのですね」
少しの嫌味を込めつつ。
「俺も見習うべきところだと思ってる」
「……」
ほんとさ。
なんなの前田。
だってこんなのアリなの?
だけど、どういうつもりだろう。
電話はいつも前田さんが一方的に話す感じで、どこまで本当かわからないから、わたしは適当に相槌入れているだけ。昨日なんか気づいたら朝で。
前田さんの自分語りが退屈すぎて、いつのまにか寝てしまったんだよね。
もしかして芦沢さん騙されてない?
それとも、わたしが騙されている?
「——はあ」
たしかにこれまでも、こんな感じで急に予定が入ることはあった。プライベートと言ってもいいほどのものから会食と堅苦しいものまで。
とはいえ会食も言ってみれば親交を深めるだけのものだったりするから、プライベートじゃないと一概には言い切れないんだけどさ。だから言ってみれば、べつに今日が特別なんかじゃないわけで。
だけどさあ。
なんにせよ前田さんのやり方って、そのどれもが気に食わないのは確かなんだよね。
だから苦手。芦沢さんの友だちなんかじゃなかったら喋りたくもない感じなのに。
「あう」
胃が痛い。
「館野さん大丈夫ですか?」
「え?」
「顔色がよくないですよ」
秘書室に戻れば今井さんに声を掛けられた。
こんなこと言われたの、もしかすると秘書になってからはじめてかもしれない。
つまり、それぐらい嫌ってことなんだよ。
一体なにを企んでいるんだろ。
想像もできない。
怖すぎる。
そして友香さんへメールを打ち今日のことを詫びた。
ほんと残念。
昨日にしとけばよかったよ。
だって相談したいことは、まさしく前田さんのことだったんだもんなあ。