(A) of Hearts
「最初はムードのない、頭も悪い、さらに無礼な奴だと頭来て。だけどずっと頭から離れてくれなくてさ。その様子じゃヒロは知らないだろうけど、毎日電話した。全部話さないと理解できない頭だから、告白する前に自分のことを包み隠さず話してやってるのに寝てるとか。なんなんだこいつと思ったら、ハマッてた。もう駄目だ」
「——おい」
「ヒロにもちゃんと訊いてもらいたかったから連絡しただけだし。この席が接待とかべつにいいから。ここは俺もちで」
「待てよ」
「なんだよ」
「わざわざ、そのためにお前がここまで?」
「なんだよ悪いかよ。それに、よくよく考えれば毎日の電話もウザがられて当然。寝る気持ちもよくわかる。だから謝りたかった」
ちょっと!
ちょっと??
てかなに??
「館野さん。さっき謝ったのは、昨日までの俺全部」
「……」
「俺とつきあって。返事はいつでもいいよ」
な、なにごと?
れんこん饅頭を楽しみにしてここを予約したのが嘘のように頭がグラグラ。というか視界が揺れる。これ本気でヤバイかも。
「——おい、館野」
「は、はい?」
「大丈夫か?」
「へ……」
「顔色が悪い」
「だだ大丈夫です」
こんなの大丈夫なわけないじゃん。
だけどそう訊かれたら大丈夫と応えるしかないんじゃないの? 違うっけ?
「館野??」
「——申し訳ございません。待ってください。なんだかわたし、いま激しく眩暈が」
なにこれ。
胃も痛いし。
それに目も回る。
「館野さん大丈夫?」
やだ喋んないでよ。
だってなんで、こうなるの?
よくわかんないんだけど?
「館野さん?」
「おい前田。今日はもう帰れ」
「いや、だけど」
「館野は来るときから顔色が悪かった。止まらない気持ちは理解できるけれど、好きなんだったら、もう少し考えてやれよ」
前田さんが、わたしを好きなの?
ちょっと理解の域を超えてしまって、よくわからない。
「——ごめん館野さん」
声のトーンがズンと下がった前田さん。
なにも答えることができない。
だってこれ、絶対なにか企んでるよ。
「じゃあ」
そして席を立つ気配。
それだけでのことなのに安堵の息が出てしまう。
「だけど館野さん。俺のこと絶対好きにさせるから」
ひ、ひい。