(A) of Hearts
なんなの!!
「おい」
「——わかったよ」
そしてしばらくして気配が消えた。
涙が出てしまう。
安心したのか、どうなのか、よくわかんない。
だけどこれだけは言わなくては。
「も、も、申し訳…っ」
だけど上手く言葉が出てくれない。
短い呼吸が遮ってしまう。
「じっとしとけ」
申し訳ございません。
ありがとうございます。
ちゃんと、そう言いたいのに。
「——失礼いたします。お食事のご注文は、いかがなさいますか」
すると店の女将さんが控えめな声で、そう言った。
そして慌ててメニューをめくる芦沢さん。
それが申し訳ないやら胸が締め付けられるやらで、また涙が溢れ出してしまった。なので慌てて口を開く。
「れ、れんこん饅頭ください」
「れんこん饅頭ですね」
「——あ、それと、造りの盛り合わせとですね」
続けて専務が口を開いた。
「あわびグラタンもお願いします」
「……お前な」
「好きなんです」
「は?」
「美味しいんです」
「ああ、そうか」
「絶品ですよ」
「じゃあ、すみません。とりあえず、そんなところでお願いします」
「ご注文を繰り返させていただきますね?」
なんかヘンな気分。
だってなんか今度は笑えてくる。
「———…、以上でよろしいですか?」
「はい。お願いします」
芦沢さんがそう言って、そして女将さんが去っていく。
「あのさ」
「はい」
「——まあ、いいか」
「すみませんでした」
「いえいえ、どういたしまして」