(A) of Hearts

「好きな人いるって言ってなかったか?」

「いますよ」


わたしの目の前に。


「言ってること無茶苦茶だな」

「え? そうでしょうか!?」

「それじゃあさ? そいつから付き合ってといわれたらどうするんだ?」


う。


「——それは」

「それは?」


芦沢さんが、もし。
もし、もし、もし…。


「ありえないですね」


そんなの想像できない。
だって婚約者いるじゃん。


「まさか二次元キャラとかなのか?」

「違いますよ」

「アイドルとか」

「それも違います」

「じゃあなに」

「もしそんなことをいわれたら、困ると思います」


そんなのあるはずもないけれど、そんなことになってほしいとも思わない。それにわたしがもし婚約者だとしたら、こんな時間さえも許せないと思うもん。


「なんだそれ」


呆れた顔でそういい、そして笑った芦沢さん。


「そのわりにはガードが甘いよな。隙だらけというか」

「そうでしょうか…」

「そうだろ。前田にまで言い寄られて」


前田さんのあれは本心じゃないと思う。
だけどよくわからない。
ぼやっとしすぎなんだろうか。なんか違う世界にでも放り込まれた気分だよ。
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