(A) of Hearts
「あの、そういえば。専務と同じベッドで寝たことがありましたけれど、あれはよくあることなのでしょうか?」
「眠気に負ければ」
そうなんだ。
あんなの世間的には普通のことなのか。
「じつはわたしも昔はそうだったんですよね。だけど、いまは無理なんです」
「——普通に寝てたぞ?」
「ああれはですね!記憶が飛んでしまい…っ」
「焼き鳥屋で酒飲んで、初対面に近い男の前でぐーすか寝る奴なんて隙だらけだろ」
た、たしかに。
身を縮める思いだ。
「その節は大変お世話になりましたっ」
すると芦沢さんは、なにも言わずグラスを空けた。なんだか気まずい…、かも。
「し、しかし、ふたりしかいないのに並んで座ってたらヘンですね。わたし向こうへ移ります」
「——待て」
「ひ!」
立ち上がろうとすれば手首を掴まれた。
心臓が飛び跳ねてしまって思わず声が出てしまう。
「座れ」
「——で、ですが」
「いいから座って」
な、なななんだろ。
もしかして怒らせちゃうようなこと言った!?
「これまで目覚めて男の部屋だったことは?」
へ?
「——ありません」
「嘘つくな」
「つ、ついておりません」
「そんなわけないだろ」
「本当です!なんのために嘘など」
「それであれか?」
「ももも申し訳ございませんっっ」
「まったく。呆れて言葉が出ない」
ああ、もう。
なんかわたし最低じゃん。