(A) of Hearts

「俺はあんなことをこれまで館野がたくさん経験してるだろうと思ったからこそ、同じベッドで寝てもべつに気にならないだろうなと思っただけだ」

「あんなの、はじめてです!」

「……」


黙り込んだ芦沢さんは勢いよく息を吐き出した。

なんでわたし、いまさらこんな話を蒸し返しちゃったんだっけ? 悔やまれるよホント。


「あのさ。普通、セックスする気がない女と一緒の布団で寝るのは、男にとって拷問に近い。彼氏がいるから、結婚してるから、婚約者がいるから安心? 笑わせるな。俺だから無事だっただけで、あんなの襲われても文句言えないシチュエーション」

「……はい」


穴があったら入りたい。
どこかの隙間に挟まりたいぐらい後悔しています。


「無防備すぎる」

「す、すみません」

「だからキスされても普通は文句なんて言えない」


ふたたび息を吐き出し、それからわたしの顔を覗き込んだ。


「あのさ」

「はい」

「嘘。キスは俺が悪い」

「……」


返す言葉が見つからず。
そのまま芦沢さんの顔を見つめてしまった。


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