(A) of Hearts

「うまそうだな」

「そうですよね? これ本当に美味しいんですよ。どんどん召し上がってください」

「ラッキー」

「え!?」

「館野のゴチだろ?」

「えええ?」

「ここを持つといった前田も帰ってしまったし。注文先にしたの館野だし」


うぬぬ。
ぐうの音も出ない。

とはいえ予約取れたことが奇跡なのし、せっかく来たのだし。れんこん饅頭は食べたいじゃん。

ただ問題はさ?
時価なんだよねここ。
おしながきに値段が書いてないから、持ち合わせで足りるか不安になってくる。だって今日は友香さんと安いところに行く予定だったし!


「いただきます。あ、ビール追加しよっと」

「せ、専務!」

「なんだ?」

「——ワリカンに」

「はい? 声が小さいけど」


意地悪っぽくそう言ったあと"冗談"と笑う芦沢さんに、なんだかやっぱり胸がギュとする。

しっかり千尋。
ひとまず、お金の心配はしなくてよさそうだ。


「館野」

「はい!」

「やっぱり、さっき言ったのは本当だ」


な。


「え、えええ!!
あ、申し訳ございません…っ!わたし持ち合わせが少ないもので…」


すると鼻で笑うように小さく息を吐き出した芦沢さんは手にしたグラスを傾けビールを飲み干した。

わたしはここを全額払うと幾らぐらいになるんだろう、なんてことを考える。

藤崎さんと来たときは、半分出すといったのにも関わらず値段すら教えて貰えなかったから想像もつかないよ。
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