(A) of Hearts

「——あの、やっぱりワリカンで。駄目でしょうか?」

「面白いな」

「へ……?」

「前田の気持ちもわかる」

「な、なにがですか?」

「そんなバカな!!!!とか笑い飛ばしてくれるかとでも思ってたのか、バカは俺。ドツボだ」


そう言って運ばれてきた新しい瓶ビールを手に持った芦沢さんは、わたしのグラスへそれを傾けた。


「あ、自分で入れます」

「女の手酌は婚期が遅れるぞ」

「しかしわたし、結婚する気なんてないですから平気です」

「そんなこというな」

「本心です」

「でもいうな」


なんか。
どうしたんだろ。

怒ってる?
だけど、なんで。


「あの」

「ヒロは俺だ」

「へ?」


突然、なにを言いだすのかと思ったけれど、前田さんからヒロと呼ばれている芦沢さんなのだから、そりゃそうだと思った。


「俺がヒロ」

「存じております」

「——ぶ」

「どうされました?」

「ウケる」


なんで?
笑うところ?


「専務?」

「——なあ、ちぃ」


え?



「もしかして、ずっと匂いで騙されてた?」

「——ちょ、専務?」


なに?
どういうこと!!?
わたしのこと"ちぃっ"と呼んだ???

というか、いまなんの話してたんだっけ!?

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