(A) of Hearts
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「わたし会社辞めます。いつもの専務に戻ってください」
「……」
「お願いします」
いつもの俺。
キミの目に俺はどう映る?
「いつもの俺って?」
「専務です。わたしの上司です」
その言葉に息を飲む。
いま俺はキミという支えがあったからこそ、揺るぎないチカラを発揮したいと。そう思っていたことを実感してしまった。
それをいま言葉で伝えたいけれど、口にしてしまうのはどうだろうか。これは余計な足枷か。
「眩しいな」
「専務…っっ!!」
「立派な秘書だ」
「……それは、専務のおかげです」
キミには敵わないって、また思う。
ひょっとすると失望してもらっているほうが、俺にとってはいいのかもしれないとすら思えた。
「俺はケツの青いガキと変わらない。それにもし俺のおかげだとするなら、それこそ館野のおかげ」
「ゼロと言ってください」
どうしたものか。
来月結婚を控えている身なのに。
しかも上司という立場でありながら。
「——100」
だからこそ。
今度こそ。
そんなことを思ってしまう俺は不毛か。
「なんとかするから」
「やめてください」
「俺を信頼して、ついてきてくれないか?」
ふたたび出逢ってキミの気持ちを知ってしまったいま、手放したくないって強く願う。それで俺に失望してくれるなら、むしろ俺にはそっちのほうがいい。
そしてキミに顔を近づけた。
三度目のキスは、もう謝らない。
ありえないほど、心臓がうるさい。
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