(A) of Hearts
時計を見れば6時過ぎ。
ざわつく胸に手をやりながら確認すれば前田さんからの着信だ。
「……なに」
こんな朝早くになんだろう。
もしかして、すでに前田さんの耳に入っているとか?
はじめて前田さんからの電話を受けた日を思い出しズシンと鈍い脈が胸を打ち付ける。
一度大きく息を吐き出し携帯に手を掛けた。
「おはようございます館野です」
『おはよう朝早くごめんねー。いま大丈夫?』
いつもと変わらない様子。
だけど朝の電話は、これで二度目だ。
はじめて電話がかかってきたときも朝だったから、なにか裏があるんじゃないかと思い身構えてしまう。
昨日だって突然好きだのなんだの意味がわからなかったし、なにかを企んでいるに違いないと思える。とはいえ謝罪の言葉がなにより先なのだろうと思った。
「昨日は申し訳ございませんでした」
『いいよいいよー! ぜーんぜん気にしてないから!だけど、俺のことを好きにさせてみせるといったことは気にしてくれていいよ』
あ、すっかり忘れていた。
そういえば去り際にそんなことをいっていた。
『あれからヒロに慰められて、俺のキメ台詞をすっかり忘れ去られてるんじゃないかと心配で心配で』
「そのようなことは、」
ある。
正直忘れていたよ。
だけどこっちはそれどころじゃなかったなど、いえるはずもなく。
『忘れてただろ』
「——申し訳ございません」
『素直でいいね、愛してるよ』
「……」
ど、どう返せばいいの?
『どう? 俺のこと好きになりそうだろ?』
「お気持ちは大変嬉しいのですが、」
『てか俺、負ける気がしないんだよね。そもそも勝てない勝負はしない主義だし。あ、また具合悪くなったらごめんね』
「いえ大丈夫です。ですが、わたしが前田さまを好きになることはないです」
『ゼロと言い切れる?』
「はい」
『それ傷つくなあ』
「申し訳ございません」
「けど残念ながら、俺からの電話を取っただけでゼロじゃないんだよね』
どこまで本気なのか、ふざけているのか。
全然わからないよ。